踊る髭の冒険

30歳を目前に仕事をやめて旅に出た髭の人が世界中放浪した果てに結局海外大学院留学せずに帰国→家族でベトナム ハノイ移住→その後ドイツで大学院卒業→現在はカンボジアでのらくら。

こどもの虫歯のはなし。

僕の仕事は歯科医師です。
根っからの旅人気質ではあるけれど、仕事には真面目に取り組んできました。スーパードクターではないけれど、目の前の患者さんには真摯に向かい合ってきたと思ってます。
 
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歯医者さんとして働いていると、口の中が虫歯だらけのお子さんに出会うことがあります。

 
そういったお子さんのお母さんを見て「自分の子どもの口の中くらいしっかり管理してあげろよ!親の責任だろ!」と思ってしまうこともありますが、よくよくお母さんの話を聞いていると背景にあるのは「知らない」「理解していない」ということだとわかってきます。
 
虫歯がどうやってできるか、どんなことをしたら虫歯になりやすいのか、根本的にそういう知識を持っていない。
 
日本中の歯医者さんは、小学校で様々なかたちで虫歯予防をプロモーションしています。きっと小学生の頃学校に歯医者さんが来て歯の話をしていたことを覚えている人も多いはずです。
 
僕も何度か職場から近隣の小学校に「虫歯予防の話」を紙芝居やクイズで伝えにいったことがあります。
 
そういった時に子供たちに触れて思うのは、子どもには罪はない、ということ。
子どもたちは皆一生懸命話を聞いてくれます。きらきらの目を輝かせてクイズに答えてくれます。
 
いま、自分の子どもの口の中に関心がないお母さんがいたとして、そのお母さんが小さい頃もきっと教わっているはずなんです。
 
その背景に何があるのだろう、と考えた時に僕の頭に浮かぶのは「貧困」の問題です。
 
ほとんどの歯科医師国民健康保険を扱って診療をしているので、生活保護制度を使っている方は無料で診療が受けられます。
 
歯科医師になったころ、先輩方が生活保護を持っている人たちに対して「偏見」を持っているのが堪らなく嫌でした。患者さんが少し変わっている方で生活保護を受給していたりすると「セイホだから」という言葉でひとまとめにして人格を否定しまうのです。本当に悲しいことでした。
 
5年診療に携わっても、僕自身には「生活保護だから…」というあまりにも無教養で人格まで否定しまうような括りは一切ありません。しかし、お口の中の環境は、かなり大きく家庭の環境に左右されるという実感はあります。
 
「日本の貧困問題」は実はかなり深刻なところまできているんじゃないかと僕は日々診療のなかで感じています。
 
 
少し話は変わりますが、少し前にベテランの小学校教諭の方と話をしたとき心に残った言葉がありました。その先生は大阪でも特別難しい地域の小学校に勤めておられ、僕の小学校の時の担任でもありました。どんなところがそんなに大変なのか?と聞いたところ
 
「貧しい。ほんまに貧しいんや。貧しいとな、家庭で出てくる言葉がまず貧しい。だから考える力がつかない。ほんまに可愛い子らなんやけどな…」
 
この「言葉が貧しい」というのは凄く色々なことの的を得ていると思います。
 
 
診療の現場で、僕たち歯科医師は言葉を選びます。少しでもちゃんと理解してもらえるように、わかりやすく説明するように心がけます。
貧困が生み出す「言葉の貧しさ」は子どもやお母さんの理解力に大きな影響を与えてしまうのだと思います。
食生活の改善や、虫歯についてのお話をしてどれだけそれが伝わるのかということ。
 
 
お母さん達にむけて、PTAなどを通じて歯科保健に関する情報をセミナー形式で伝えることもあるようですが、結局そこに集まるのはもともと意識が高いお母さん達です。
 
 
どうやったら、ほとんど全部の歯が虫歯のこどもたちを、すこしでもいい方向に導いていけるんだろうと僕は虫歯を削りながら考えています。
 
いままでの方法でだめなら、妖怪ウォッチが流行ったみたいに、何か流行になるような楽しい方法で、歯の大切さを伝えていけるものはないかな、と思ったりもします。(流行で終わったらもちろんだめだけど)
 
歯の健康で大切なのは虫歯を削って詰めることではなくて、いかにして虫歯を作らず、お口の中を管理していけるか、なんです。
 
同じことが(マンパワーや資源の問題、文化背景など状況は複雑でしょうが)世界の色々なところでも起こっているとして、それを実際に見にいくのも僕の今回の旅の目的の一つです。
 
昔、ダライ・ラマの講演を聞きにいったときある人がダライ・ラマに「貧困はどうすればなくなると思いますか?」と聞いていました。
 
5千人の人々を前にダライ・ラマは言いました。ただ、ひとこと。
 
「I don't know」と。
 
 
僕には貧困を解決できる手段を考えつくことはできません。
 
 
みんなが楽しみながらできる、世界中の子供たちが楽しめる、お母さんにも勉強になる、資源がなくても、そこに歯科医師がいなくても、機能するような虫歯予防へのソリューションはないでしょうか。
 
お口の中が虫歯だらけのこどもたちをみて、僕はそんなことを考えています。
 
旅をしながら、もっと深く、考えていきたいと思っています。