2020年1月25日
朝。
最後の望みをかけていた早朝の時間帯にも荷物は届かず、ぼくは半ギレの状態でレセプションの感じの悪いお姉さんに空港に電話をかけてもらっていた。
この日あたりから「コロナ」の話がイタリアでも騒がれて来ていたような気がする。いま思えばそのせいなのかもしれないが、ホテルの朝食ブュッフェ時にウエイターのアラブ系の男性に露骨に嫌そうな態度をとられて朝から良い気分ではなかった。
次にレセプションのお姉さんからでた言葉が想像のなかになさすぎて、最初はぼくは彼女のイタリアなまりの強い英語を理解しきれなかった。彼女は電話を片手にいう。
「だからぁ、あなたの荷物は空港にあるんだって」
「何言ってんだ?いいからとりあえずここに送るようにいってくれ。なんなら明日までローマで待つから」
僕は聞き取れてなかったのだが
「えっ!ナポリの空港にあるってどういうこと?!」と妻が入ってきた。
ナポリの空港‥??
ナポリの…
空港にある…だと…ッ!!
しばらく意味不明で混乱した我々。
しかしどうやらこの感じの悪いレディ曰く、我らのスーツケースはナポリの空港にあるらしい。
ほんまかいな、、、
と疑いながらも、ナポリの空港にあるのなら、今日ナポリに移動して取りに行けば良いし結果オーライか!と開き直る。
チェックアウトを済ませて、雨上がりのローマの町をぬけ、一路ローマ・テルミニ駅へ。
自動券売機でチケットが買えて、わりと簡単。
ナポリまでは早いやつだと1時間くらいでいける。
「ほんまに荷物がナポリにあればええけど…」
心配する大人をよそにこどもたちは楽しそうにしてた。
たどり着いたナポリは晴れ。
駅前に明らかに治安が悪い空気が漂っていて、気が引き締まる。髪がボサボサの黒人が集団でたむろしていて、ぴりぴりしてる。
ナポリの第一印象は「世紀末」だ。
いきなりヒャッハーされそうな雰囲気がぷんぷんする。
そして、ものすごく助かったのは、ナポリの空港が中央駅からシャトルバスで15分くらいで行けてしまうことだ。
ナポリのカポディキーノ国際空港に到着。
インフォメーションですぐ荷物を取りに来た旨を伝える。
「ああ、ロストバゲッジねー。となりの窓口へどうぞー」
と案内された先にはインターホンしかなく、窓口にはカーテンが閉まっていて中がみえない。
しかし中から人の気配はしていて、時折談笑している様子が伝わってくる。
どうやらこのインターホンを押すようなので、いままでの色々な憎しみもこめて強めに押してみる(ナポリの空港の人たちにはなんの罪もないけど)。
ブー、っと低めの機械音がして男の声が聞こえてきた。あきらかに、やる気はなさそうだ。
「ローマの空港でロストバゲッジして、ここに届いていると聞たんだけど…」
「あん?細かいことはいいから、とりあえずクレームナンバーを教えてくれ」
無愛想な声の主に紙に書かれた番号を伝えるとちょっとまてと言って通話が途切れた。しばらく待っていると名前を確認された。あるんや!荷物、ここにあるんやな!
「アエロフロートの便だよね?オーケー、10分くらいまってて」
ぶわっ
っと今までの苦労もすべて、なんとかなると思えた瞬間だった。
ところが、30分くらい待っても誰も現れない。もう一度インターホンを押すと
「あっ、ごめww 忘れてたw」
と男に奥の通路に案内された。仕事しろ。
荷物検査を受け、パスポートを預けて空港の中へ。そこで初老のなんだか憎めない感じの太ったおじさんが陽気に待っていた。
「いよぉ!いやー!長旅だったね!これが君のスーツケースかな?」
おじさんの手には、確かに我々のサムソナイトのスーツケースがーーーーー!!
待たされた事も忘れて笑顔でグラッツェ!と言ってしまった。
書類に受け取りのサインだけして、妻のもとへ。
「やっと帰ってきたーーーー!」
ぼくらのテンションの上がり方は、すごかった。こどもの離乳食も底をついており、イタリアで手に入るものはなぜか息子が食べてくれなかったので困り果てていたところだったのだ。。。
その後はメトロにのって、宿のある新市街にむかった。booking.comで予約したけれど、たぶん民泊のようなところなのだろう、宿主が直接メッセージをやりとりしてくれていて、丁寧なやりとりからとても期待していたのだった。
フェリーの港にも近いこの場所からは、近くの島にも簡単に行けるだろうとこの辺を選んだ。特に何を観光したいとかではなかったので、ナポリの三日間はゆっくり過ごすつもりでいた。
今回の目的は「美味しいピザを食べにいこう!」だったので、それさえ達成できればなんでもよかったのだ!
トレドと言う駅を上ると繁華街なのか人がたくさん歩いていて、活気が溢れていた。
ちょっとした路地も可愛くてとてもよい。
15分ほど歩いて、宿の住所にたどり着いたのだがそこにはマンションや、ホテルはなかった。
「門!」
そう。ドでかい門があってその下にある小さな扉からパスワードを入力して出入り出来る様になっていた。
なんという秘密感!入りにくいのは別として、僕は嬉しくなった。
かなり古いエレベーターで最上階まで上がると可愛いテラスが広がっていてときめいた。
見晴らしも最高で、共有の冷蔵庫に置いてある果物やワインは「ご自由にどうぞ」とのことだった。やっるぅー!
キッチンも完備。ベッドもリビングとベッドルームに一つずつ。広いし、床暖房だし、お値段もリーズナブル。そしてなんと無料で洗濯までできるのだー!
この宿は本当によかった。
ナポリでこの宿に泊まらずホテルを選んでいたらまた大変だったかもしれない。
家族で旅をするなら、こういう「暮らすように滞在できる」場所を今後は選ぶべきだと身に染みた。
帰ってきた我らの荷物を開封し、新しい服に着替えたときの爽快感といったら!!丈助もびっくりな正月元旦の朝感ッ!
俄然、旅が楽しくなってきた僕らは少し休憩して街へ。そもそもガイドブック等は見ていないのでぶらぶら。
ナポリの町は犬を飼っている人が多くて娘がとても嬉しそうだった。小さい子にはみんな優しくて、居心地がよい。
Googleマップ上で宿から1番近かったピザ屋さんがめちゃうま。とりあえずマルガリータ食べたけど、うますぎて帰りに別の注文した。シンプルかつ、飽きない。しかもかなりの大きさでたったの3ユーロ程!
ナポリの路上のピザ屋でピザを買うと、折りたたんだ状態で渡されるので、折りたたんだまま食べるのがおすすめ。開けるとこんな感じになってちょっと残念な気分になる。
はやくも、ピザ発祥の地で「美味しいピザを食べに行こう」は達成された。
活気のある雰囲気やローマよりも街にあふれる「旅感」にやられて、ぼくはずっと「ナポリめっちゃいい町。ナポリ最高。」と誰に言うでもなく言っていた。
今きたばっかりやん!
と妻には言われながら、この日はピザをお持ち帰りして食べて休んだ。
息子も何か安心したのかこの日はよく寝てくれて、家族全員やっとほっとして寝床につけた日だった。
なんだかお気に入りの街を明日はもう少し探索してみよう。