踊る髭の冒険

30歳を目前に仕事をやめて旅に出た髭の人が世界中放浪した果てに結局海外大学院留学せずに帰国→家族でベトナム ハノイ移住→その後ドイツで大学院卒業→現在はカンボジアでのらくら。

踊る髭とShai.

4月15日

ムアンゴイで出会ったShaiは年が28歳でほとんど同い年。

ラオ人でこの年で未婚は珍しい。

「やりたいことがいっぱいあるんだ。みんな俺のことをクレイジーだと思ってるよ」
人間は、似たような人間に出会うもんだな、と僕は不思議に感じていた。


Shaiの店で遅くまで話した。

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どうしてそんなに英語が上手いのかと僕はきいた。ラオ人の英語が話せる人は観光業に携わっている人間以外だと多くない。

「子供たちに英語を教えてた。教えることは学ぶことさ。俺は自分のコミュニティに何かを返したいと思ってる。コミュニティがあるから俺は生きていられるから」

Shaiの家庭は裕福ではなかったため高校を卒業してすぐに僧侶になった。
あとで何人かこういう人に出会うのだがラオスでは地方出身者がしっかりとした教育を受けられず、職につくのも難しい場合、ルアンプラバンで僧侶になるという道があるようだ。
僧侶になると仏門の修行の他に基本的な教育を受けられる。図書館を使うこともでき英語も学べる。どうやらその中で小さな子供たちに英語を教える、という活動があるようで僕が出会ったラオ人で英語が上手い人はこの道を辿った人が多かった。

「次はな、ゴミを綺麗に片付けるってことをやっていきたいと思ってる。ここの人たちはさ、ゴミをすぐに道に捨ててしまうから」

「大きな事は俺にはできない。金はない。学校を建てたりはできないよ。世界を変えたりもできないだろう。俺ができるのは本当に小さいこと。このコミュニティにできること」

どこからそういう発想がくるのか。仏教が君に大きな影響を与えたと思うか、と僕は聞いた。

「そうだね。そう思う。まああとは俺は小さな頃から悪ガキで悪いことばかりやってきたから。コミュニティや親には恩返しをしたいって自然に思ってる。いつでも自分の足で立ちたいと思ってるよ。でも失敗ばかりしてきた。1年半、僧侶をしてそのあとバーをやってた。毎日夜中まで飲んで、夕方起きる、バンパイアみたいな生活をしてたな。でもまあそれは辞めたんだ。それからアートを学んでいまはここでこの店をやっている」

Shaiの両親はルアンプラバンに住んでいて父親は病気でかなり状態が悪いらしい。ここから動きたいとは思わないのか?それだけ英語もできればルアンプラバンで他に仕事もあるだろう、と僕は聞いた。

「いい質問だ!、、、心の深いところでは俺はここから動きたくないんだ。俺はオールド・バッファローなのさ。スマートフォンとかもよくわかんねーし、テクノロジーがいっぱいあるとこにいくのも嫌だ」

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だから俺はここにいる、とShaiは言った。

Shaiのアートワークは美しい。
紙を切り抜いて作品を作っている。
僕はbook markを買った。

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彼は店で彼の作品と、自家製の土産物、ムアンゴイの人々が作ったスカーフやバッグを売っている。カフェでもあるようだがなぜか値段設定がかなり高く、あまり利用者はいないようだった。

「ここは借りてんだ。大家の俺に対する扱いが酷くてな!いま家を建ててる。金は全部それに使っちまってるけど、もっと自分の思い通りにやれる場所が欲しくて」

そういって彼はビールの栓をぬいた。
彼の右手の親指には指輪がある。その指輪はビール瓶を開けれるような形をしていていつでもどこでも彼はビールを開けられるのだ!

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「ドイツ人の友達がいてな、ここに来て出会ってラオ人の俺の友達と結婚したんだ!そいつからもらった。それ以来アル中まっしぐらだよ!」

彼は本当にいい顔で笑う。
だからなのか僕が彼の店で話をしているときもひっきりなしに人が店に訪ねてきた。
彼がこの人たちを愛してるいて、ここの人達も彼を愛してることが感じ取れた。

いい場所だなと僕はいって、彼はyesと笑った。

「前に日本人の彼女がいてな。大阪に住んでる。君がすぐに帰るなら、もって帰ってほしいものがあるんだが世界中1年も周るならだめだなあ。そうだ、メールで写真を彼女に送ってくれ。俺はそういうのよくわからないから。うまくいかなくなったけど、俺はあの子が人生でこの人!って人だったと思ってる。」

いつでも待ってるって伝えてくれよな、と彼は言った。

竹のスープ(にがい)とご飯、自家製のラオラオをご馳走になって、ビールも何本か開けた僕らは、夜も老けてきて縁も竹縄。お開きになった。

「オールド・バッファローがここを動く時がくるとしたら、それは愛が理由でしかない」
とまた彼は日本人の女性への愛を口にした。

俺にはこの両手と、ハートしかないけどね。

この辺境の地で君のような人間に会えて本当によかった、僕はそういってShaiの家を後にした。


「何もない」場所などないのだ。
「誰か」がそこにいる限り、必ず物語はそこにある。