ラオスの歯科医療について。
4月7日。ビエンチャンに到着してすぐにOISDEという歯科系のNPOの現地職員にである持田さんの車でラオス唯一の医師、歯科医師の教育機関である、ヘルスサイエンス大学を見学に向かわせてもらった。

あ、僕は歯医者なんですよ。
でまあ、世界一周中に色んなとこで現状をみたり、ボランティアしてみたりしたいなと思っているわけです。
ヘルスサイエンス大学。
年間70人の学生達がここを卒業し、歯科医師になる。といっても、まだ歯科医師はライセンス制ではない。国家試験を合格すれば、ではなく卒業すれば自動的に歯科医師になる。
彼らの進路は大学の先生になる、何処かの病院で働く、開業する、のいずれか。

「毎年入学する70人のうち30人は縁故で入りますね。官僚や偉いさんたちの子どもだったり。卒業だってワイロでオッケーですからね。教育機関としての大学のレベルをもっと上げないといけないと思います。」
まあ、どっかの日本の大学の少し前と変わらないなーと僕は思った。
持田さんは続けた。
「熱心な人もいます。タイに留学して修士号をとってきたりね。でもあまりにもラオスとタイのレベルが違いすぎて、結局向こうの学部生の授業を2年くらい受け直さないといけなかったり。他の東南アジア諸国からも教育機関のレベルをあげないと留学生も受け入れ辛い、と言われてます」
僕は病院中を連れて歩いてもらった。
持田さんの信頼は病院全体で厚く、とてもスムーズに皆さんに紹介してもらえた。

学生さんたちが入れ歯をつくっていたり

ミスラオスとの一枚!
歯学部の学生さんでした。
補綴、根菅治療、小児歯科、口腔外科とわかれており補綴(歯の上の被せ物)以外は保険が効くらしい。国の保険、といっていたけど本当のとこどこまでかはわからない。
ちなみに技工士さんもライセンスはないし、学校があるわけでもなく、「技工士」みたいな仕事をしている人が子どもに技術を伝えたりしながら仕事が受け継がれているような感じ。
学生さんたちは明るくてすごくいい感じ!なのだが患者さんが少ない。
「そうなんですよね。大学病院に患者さんが少ないんです。大学の方が開業医より安いんですけどね。やっぱり、学生がみるんでしょ、ってところがあるみたいで。1日だいたい40人くらいですかね」
ラオスの歯科大学は日本と同じで6年。5年から実習を始めるとして140人の学生が診療実習にあたっていることを考えると患者数が少な過ぎる。

「設備だって、殆どが寄贈されたものなんですよね。ほら、このパノラマXray撮影する機械も○○大学さんから。で、ここでデータが見れて○○大学さんから症例に関して意見をもらえる、っていうシステムなんですけど、うまく機能してませんね」
そりゃそうだ。一体全体、このシステムを導入した人達は、ラオスの人達が自分たちと同じ「歯科医療」をみていると思ったのだろうか。
僕は、ラオスの一般の人々がまだまだ歯科疾患をいわゆる「病気」として捉えるところまで至っていないのではないかと推測する。まだまだ認識として病院にいって、治療を受けるような「病気」になっていないこと。そして毎年卒業する70人の歯科医が地方には行かず都市部に集中してしまうことが原因で、ラオス全体で歯を治療するという文化がまだ産まれていないのではないか。
つまりラオスの歯科は「医療化」されている途中である、と言えるのではないだろうか。
医療化というのは医療人類学の考え方で、例えば「妊娠、出産」というものがいつのまにか病院で対処する「現代医療の対象」になってしまったようなことを指す。
「おっしゃる通りです。しかし地方にはトラディショナル・デンティストと呼ばれる人達がいてなんか凄い材料で入れ歯を入れちゃったりとかするらしいですよ。僕もあったことはないんですがね」
トラディショナル・デンティスト(´・Д・)
会って見てえーー。どこいけば会えるのかはわからないとのこと。ラオスを出るまでに会えるかな。
さて、持田さん達の組織の取り組んでいる活動に話をうつそう。

OISDEはある有名私立大学の元教授が始めた取り組みで、カンボジア、ラオスを対象としている。
特色は、「歯科医療者を現地に送る」のではなく、「現地の人を育てることで問題を解決しよう」としているところだ。
そして資金繰りをしっかりしており、無償の活動ではなく、持田さんのような現地職員にしっかりと給料を払っている。
「途上国支援」と呼ばれる全ての活動の課題はどのように現地の人達に自立してもらうかというところになると思う。
毎年70人しか増えない歯科医師が育つのを待っているのでは間に合わないため、OISDEがとった作戦は
「看護師に基礎的な歯科医療を教えること」
ラオスは東南アジアで唯一歯科衛生士が制度として存在しない。そして看護師は、卒業後にラオス各地にあるヘルスケア・センター(お産を手伝ったり、簡単な医療処置をしたりするところ)に配属になるため、彼女らが歯科の知識を持ち、簡単な治療ができれば歯科医療の普及に一役を買うと思っての施策だ。
いまは首都から車で2時間ほどのビエンチャン県で20のヘルスセンターに持田さんとラオスのDr.が出向いて少しずつ看護師に技術を教えていっている。
最初は充填などの処置だけだったようだが結局「抜歯できないと意味ないよね」って話になり、現在では抜歯もしているのだとか。
だが、難しいケースは連携している歯科医院、もしくは医療施設にまわすようにしているとのこと。つまり一次医療機関としての役割をヘルスケア・センターが担っているわけだ。(日本でいうとこの部分も町の歯医者さんがやっていて、がんなどを見つけた時には専門機関に紹介します。程度の差があるわけですね)
もちろん歯科医師を育てることに関してもOISDEは尽力している。ヘルスサイエンス大学にマスターコースをつくったり、日本から歯科医師を呼んで勉強会をしたり。
いまラオス政府にもこの取組は認められて近い将来モデルケースとして参考にされラオス全土に広がる可能性があるようだ。

僕が懸念するのは、ラオス及びいま途上国と呼ばれている国々がこれから発展していく中で「日本の同じ歯科医療の道をたどってほしくない」ということ。
というのも日本は「削れば削るほど歯医者が儲かる」制度を作ってしまったために(それが当時は必要だったのかもしれないし、当時を経験していない僕に何も言えることはない。いずれこのあたりに関してはもっと深い考察が必要だが)現在もその制度から抜け出せず先進国と呼ばれる国々の中では国民の口の中の状態はかなり良くない。
よく北欧諸国が引き合いにだされるのだけど彼らはある時点で大きく方向転換し、「歯医者さんの仕事は歯を削ったりしないでいいように歯を守ること」で歯科医院はそのためにいくところ、という意識を歯科医にも国民にも持たせることに成功した。
全ての国に対して北欧諸国がとっている施策がベストかどうか、僕にはまだ答えがだせないが、すくなくとも「歯が残っていることが健康」という理解がある地域ではこれはいい方向性なんじゃないだろうか。そこに各地域の文化背景を組み入れつつ、押し付けではない、その地域の人達による、その地域の「医療」があっていい。
本当の意味で世界がグローバル化を迎えるなら、均質化していく価値感が存在するのと同時にアイデンティティを求める気持ちは高まってくると思うし、そういった時に必要なのは間違いなく他の文化に対する理解だろう。それは医療という分野に対してもそうじゃないのか。
「ある程度今のプロジェクトが進めば、システムに落として行きたいと思ってるんです。システムに落とさないと絶対に続いていかないから」
持田さんのこの言葉は前職がコンサルティングをされていたことからもリアリティがあるし、実際現場では確かにそうだと僕も感じてる。
もちろんシステム化することで失われていくものもある、かもしれないのだが。
集団をある方向に向かわせるには「制度」というのは便利なものではある。
「お話したとおり課題はいっぱいあるんですよ。」
持田さんはパソコンの画面でこれから取り組もうとしているプロジェクトを見つめながら言った。

「でも、変わってほしくないな、とも思ってるんです。なんというか、ゆったりしているのがこの国の良さというかね」
きっと一般のラオスの人々にも「変わらないといけない」という意識はまだまだない。
僕や持田さんがラオスに見る「良さ」は日本とのギャップからくる観点かもしれないが
、ラオスの人々もいまのラオスを愛しているのなら、そういった所は残しながら「美味しく食べて、生きる」ために必要なものは取り込んでいってほしいと思う。
僕はこの「美味しく食べて、生きる」ことだけは人類全体に誰にでも、幸せなことなんじゃないかと思うからだ。
さて、「健康」とはどこにあるのだろうか。
縁あってこの文章を読んで下さった皆様にもご一考願いたい。
最後に医療法人I's medical 安部歯科医院様より協賛頂きました日本のキシリトールタブレットは無事ラオスの先生方にお渡ししました。


忙しい中「日本のホスピタリティーを」とすごく可愛くラッピングしてくださったスタッフの皆さん本当に有難うございました!