踊る髭の冒険

30歳を目前に仕事をやめて旅に出た髭の人が世界中放浪した果てに結局海外大学院留学せずに帰国→家族でベトナム ハノイ移住→その後ドイツで大学院卒業→現在はカンボジアでのらくら。

クリール 〜タラウマラ人の聖地を訪ねて

12月12日

サミュエルが「サンドウィッチ作ったから一緒に食おう」と朝起こしに来てくれた。なんて優しいやつ!イケメン!


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昨日他に参加者を見つけられなかったので、サミュエルと2人でクリール近郊を巡るツアーに参加した。

出発間際に昨日ツアーの話をしてくれた英語の話せる青年(泊まった宿の息子)ではなく、スペイン語しか話せない原住民の青年がツアーを案内するという話になったが、サミュエルがそれに抗議してくれてなんとか僕は英語での案内のあるツアーに参加できることになった。

クリール近郊にはタラウマラ族と呼ばれるネイティブアメリカンの人々が住んでいる。彼らは走る民族と呼ばれているらしく、ツアー同行の宿の息子モイス(聖書のモーゼから来ている名前らしい)によると、世界中から走り自慢の部族を集めて走らせたらケニア人をおさえて(たぶんマサイ)タラウマラ族が1番だったとかなんとか。

ものっすごい曖昧な話ぶりだったけど、つまり彼らは暫定世界最速の部族らしい。信ぴょう性はない(°_°)

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ツアー1箇所目はまず湖。上空から見上げると馬の形にみえるんだとか。針葉樹、っていうか松?がたくさん生えててなんか日本みたいだな、と思った。



その後、あるていどまた車で進んだところで自然公園みたいなとこについて、サミュエルが「俺は歩いて行きたい!」といい始めた。小雨がぱらぱらしていたけれど、まあ歩けないほどでもなかったし、景色もよかったのでしばらく歩いて道を進む事にした。ガイドのモイスは、車で先に向かって向こうで待っているといって去っていった。

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川沿いに大きな岩が転がっている。ある程度舗装された道があるのでそれ沿いに僕らは進んでいった。
途中ゴミがたくさん落ちていて、サミュエルがそれを見つける度に怒っていた。「マザーアースをなんだと思ってるんだ…。俺はこの公園の管理者に抗議してやる!」と彼はひとつひとつゴミを拾って歩いている。

そこまでせんでもええがな、、、と僕は思いながら地球環境を憂う優しい彼を少し手伝ってゴミを拾ったりした。


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奇妙な形の岩山が辺りに広がっている。
サミュエルは岩山を指差すと、アリゾナのネイティブアメリカンの聖地にそっくりだ!と言って岩に向かって走り出していった。(ゴミは一旦地面に置いていた)

彼は「俺はホピ族に、『お前の心の中には平和がある。お前はホピだ。』と言われたことがある(ホピ、とは平和という意味らしい)、と言って岩山に向かい突然両手を合わせて腕を大きく振って祈り始めた( ゚д゚) 

そしてたまに「ヒュウッ!」とか「フェッ!」と割と大きな奇声を放ち始めるではないか。


「みろ!あの岩山の山頂に人間の顔が見えるだろう!あれが俺たちの祖先さ!ああ、祖先が見守ってくださっている!」
彼はそういうとまた「オアッ!」というなんともいえない奇声をあげた。

その直後に少しだけ日の光が差したのを見て「みろ!神も応えてくださった!」と彼は言う。







( ゚д゚)
なに、世界は広い。こういう人だっている。
でも、まあなんだ、君のやりたいようにやればいいしリスペクトするけれど。
ここは必殺「付かず離れずの微笑み」やな。



僕は「うん…。見えるね、顔だね。」と本当はどれが顔やねんと思いながら微笑んだ。これぞ日本人のスーパースキル『和を持って尊しと成す』。

昨晩から「髪は霊的なアンテナだから君も髪を伸ばした方がいい」とかスピリチュアルな話が多いなとは思っていたけれど、がっちがちの本物キタ´д` イケメンやのに。


所々で気に抱きついたり、岩にキスをしたりしながら歩くサミュエルに微笑みを向けながら僕は進んだ。



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滝!!かなり大きな滝で、近くまで近寄れて、服はびしょ濡れになったけど楽しかった。

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滝に向かうサミュエル。イケメンは絵になるで。滝に向かって奇声を発しさえしなければ。。。



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さて、自然公園散策を終え次はなんだか有名らしい教会へ。
教会の裏で木が燃やされていたんだけど、これがいい香りのする木でサミュエル曰くネイティブアメリカンの人々の使う聖なる木らしかった。

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彼はその煙を身体につけたいとかでくそ寒い中服を捲り上げ風下で思いっきり煙を受けていた´д` なんつーかもう、な。


その後、奇岩地帯へ。
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ネイティブの少女達に導かれて岩山の上へ。

「平和、というものがあるんじゃない。平和に続く道こそ、平和そのものなんだ。」みたいなそれっぽいことをボソッとサミュエルが言うんだけど、なんだか彼がいうともう何だか胡散臭く聞こえてしまう。


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最後にタラウマラ族の暮らす洞窟へ。
ここではまだ今でも洞窟で暮らすことを選択している人々が住んでいる。

火を炊くからなのか、洞窟の中は真っ黒だった。でもなんというか、寂しい空気が漂っていた。タラウマラ族の女性が座り込んで土産物を売っているのだけど、その顔もなんとも晴れない。

サミュエルは「本当に心を打たれた。あんな風に人々は暮らすべきなんだ」と主張していたけれど、僕はなんだか原住民の人々の影のようなものに触れた気がしていた。



ツアーの内容には大満足でクリールの街へ帰った。

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町の小さな教会では先住民の人々が民族衣装に身を包んで踊っていた。

サミュエル曰く今日はマリア様にまつわる何か重要なお祝いの日らしい。



夜。
「これからメキシコでは1番の聖地に友達と向かう。そこは砂漠なんだが、ネイティブの人々が巡礼の旅の果てに辿り着く場所だ。よかったら君も来ないか」とサミュエルが誘ってくれた。


日程的にはいけなくはない。
しかし、スピリチュアルな話をノンストップで話し続け、心に平和があるという割にはすぐに怒り出し、人々や町に不満をたらす彼とずっと一緒にいるのはしんどかった。

実際、その聖地には興味があったのだけど「そこにいってなにをするのか」と聞くと友達と合流してペヨーテという植物の種を食べて神と交信する、というのだ(°_°)

写真を見せてもらうとペヨーテは小さなサボテンのような植物なのだが、その種には幻覚作用があり、マリファナアヤワスカなどの植物と並んで伝統的にネイティブアメリカンの人々の中で使われている「聖なる」植物らしい。

僕はマリファナも経験がないので、ペヨーテは君には強烈すぎるかもしれないが…と彼は言う。


まあ、なんというかこの話で僕は完全に行く気を無くした。
植物の幻覚作用を「神との交信」と呼んでいいのはそれを文化背景として受け継いできたネイティブの人々で、どんなにそれに共感してもスピリチュアルな人々がそれで「神と交信してる」なんていうと胡散臭い以外のなんでもない。

だいたい、心の平和をもたらすのにどうしてそういうものが必要なのか。
仏教徒を見ろよ。瞑想修行を重ねることで心を磨いていってるじゃないか。

だいたい僕は社会生活の中で活かせないような「スピリチュアリティ」とか「哲学」に興味はない。
霊性や哲学は人間にとって大切だと思うものの、社会生活から離れてそちらに基準を置くのはいかがなものかと僕は思う。

サミュエルが、自分の部屋の鍵が見当たらないとかでイライラしてるのを見て、正直なにが心の平和やねん、、、と感じた。

まあ、皆それを求めている最中なのかもしれないけれどね。



というわけで、僕は予定通りサカテカスという次の町へ向かうことにした。

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この日の夜は凍えるくらい寒くて、よく眠れなかった。