踊る髭の冒険

30歳を目前に仕事をやめて旅に出た髭の人が世界中放浪した果てに結局海外大学院留学せずに帰国→家族でベトナム ハノイ移住→その後ドイツで大学院卒業→現在はカンボジアでのらくら。

最後の診療と犬の転生。

レー滞在最終日。

朝からひとりで診療。
患者さんの数はそんなに多くなかったので結構余裕をもって診れた。

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お昼頃にTundupとlamoに呼ばれて学校の講堂にいくと、そこでラダックで作られた映画の上映をしていた。

1時間くらいみていたけれど、たぶん、小さな子どもの毎日をコミカルに描いている映画だと思うんだけど(°_°)いかんせんラダック語がわからないのでなんとも!

みんながめっちゃ笑うとこで「どこで?!」ってなるし、何人か生徒が泣いてるとこでも「なんで?!」ってなる。

あとインド映画の影響受けまくりで(もちろんラダックはインドの一部なんだけど)登場人物が途中で踊りまくる。
なんで?なんで踊るん?ときくと
「エンターテイメントよ!」とTundup。
(°_°)

「映画ってよく見るん?町中で見れるとことかあるの?」と聞いた。

「見れるとこ一箇所あるけど、冬だけ。夏はみんな忙しいからねー。大体12月から3月の冬の間に映画みるかな!」

映画が季節感あるっていうのも面白いなー。ラダックは冬寒すぎてみんななんもしないらしい。


昼ごはん時に恋愛の話になる。
町中でカップルが手をつないで歩いてるのとか見たことがないので、どんなデートするのか聞いてみた。

「例えば誰か気になる人ができたら、とりあえず友達伝いに番号聞くかFBで探して、そこからね! 会うにしても、普通は友達も一緒にあったりが多いかなあ。ラダックは小さい町だからね。2人で歩いたりしてるとすぐ噂になっちゃうしなんていうかあんまり文化的に人前で2人でくっついてる、とかはないのよね。」

2人で堂々と歩いたりもできないってすごいなー。イランでもそうだったな。



昼ごはんを食べ終わって診療室に戻ると、初老の女の人がひとり、泣きながら待っていた。右上の歯がいたくてどうしようもないみたいで、口に水を含んでないとどうにもならないみたいだった。

右上の5番(小臼歯)に大きな虫歯を詰めたあとがあり、症状をみるにこの歯が歯髄炎になっていると思われた。

とりあえず冷静になれないくらい泣いているので、麻酔をする。痛みがとれると話を聞いてくれたので、聞くと一月前に深い虫歯を詰めたところが痛んできたらしい。

後ろの歯がなかったので「入れ歯はある?」ときくと鞄から入れ歯をとりだした。お世辞にもそれはよくできたものとは言えなかった。隣の歯にひっかけるバネもなく、ただプラスチックを嵌まるように作っているだけの代物だった。

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女性は強く抜歯を希望していて僕は神経の治療も提案したのだが、痛みへの恐怖からか理解を得られずやむなく抜歯となった。

少し時間があったので触ったことなかったアマルガムを触ってみる。水銀が含まれているため、日本ではつかえない。が、実際は科学的根拠は薄いのだとか。
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最後の診療も何事もなくおわり、夕方からTundupと王宮にむかう。

「正面からいくルートと、後ろからまわるルートとどっちがいい?」

どっちでも、と答えるとじゃ、裏からまわろう、と彼女は山道に入っていった。

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荒れた山肌を登っていく。
途中、『宗教が違うひとを好きになったらどうするのか』とか面白い話をしていたのだが、野犬の群れがずっとついてくるのが怖すぎて、僕は気が気でなく、あんまり話を聞いてなかった。

「大丈夫よ!噛む気なら最初に噛んでる!怖がったり、走って逃げたりすると絶対襲われるから、無視無視!」

Tundupは強い。
僕は狂犬病の恐怖に怯えながらもTundupの言うとおり犬を無視して(無視しようと努力して)歩き続けた。

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30分ほどで山頂付近の道にでて、その辺りで犬たちはいなくなった。一匹だけがずっと僕たちのあとをついてきた。他の犬達との関係をみるに彼はどうやらこのあたりのボスのようだった。

「2010年に大きな洪水が起こった時はみんなで泣きながらここに逃げてきたなー」と多くの人が亡くなったという事故を思い出してTundupがいう。レーは殆ど雨が降らないが、数年に一度大雨が降り、その時には家も農地もこの辺り一帯根こそぎ流されてしまうそうだ。

僕は旅に出る前に訪れた東北の石巻を思った。それで少し、東日本大震災津波の話をした。大きな災害も、ひとりひとりの人間にとっては、ひとつひとつの悲しみであるのだということを、僕は友人の連れていってくれた石巻で知ったのだった。

山頂にある僧院の脇に座ってレーの町全体を見渡す。景色が素晴らしい。ヒマラヤの山々に囲まれたレーの町を一望できる。

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さっきの犬はまだついてくる。僕たちが座ると、犬は僕たち2人の間に座った。不思議な光景だった。
なんだか昔からこの犬もしっているようなそんな錯覚を覚えた。

なんでこいつ、ついて来るんだろうね。と僕は犬の頭を撫でた。犬はものすごく
心地よさそうにしている。

「何か理由があると思うけど。寂しいのかなあ。」とTundupはいう。

こいつきっと、ボスだから寂しいんだな。強すぎるから孤独なのかも、と僕はいった。

Tundupは笑って
「仏教の輪廻では、犬は必ず次に人間に生まれ変わると言われてるのよ」と教えてくれた。

2人と一匹はしばらく山頂からの眺めを楽しんでいた。

僕がこれからインドのあと東チベットにいく、というと自分の先祖は「セルタ」というチベットの町から来たと教えてくれた。その町は金の馬の像がたつ、美しい街なのだとか。
なんとセルタは、僕が行こうとしている町の一つだった!それが本当に同じ町を指すのかは定かではないけど、ぼくは町の写真を撮って送ると約束した。

Tundupはこれあげる、とふいにノートを僕にくれた。チベット難民の人たちが手作りで作ったノートだった。

僕は代わりに、ラオスのムアンゴイという村でShaiという男から買った栞を彼女にあげた。元々僧侶だったShaiから買ったものをこの子にあげるのは何か意味のあることのような気がしたのだ。

「Tundup、働いて、君の言う自立した大人になったら、絶対いつかこの街をでて旅をしてね。」

彼女はもちろん!と笑って

未来はどうなるかわからないけどね。といった。


ぼくらはそれからて王宮へ。
なんとなく『ハチ』と名付けられた犬といっしょに山を下る。

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王宮には昔のレーの写真が飾られていたりした。修復されてはいるものの中は飾り気なく外観だけで十分だったかもと僕は思った。


山の麓の街からは何か音楽が聞こえてきていて賑やかだ。

「今日は『ダガン』っていう祭りがあるわ!」

僕らは歩いてダガンと呼ばれる祭りの会場へ向かった。