髭とムハンマドの優しさ。
4月7日 夜
ツインタワーからとぼとぼ帰ってきて
KLセントラル駅の周りで食べるところを探していた。韓国料理の店の前でメニューを見ていたらアラブ系の店員さんがでてきて話かけてきた。
「あ、すみません。見てるだけなんです」と僕。
「いいよいいよ!是非みてください!日本人?なんと!英語を話す日本人に会えるとは!」
ムハンマドと名乗った彼はやたらとフレンドリーで俺は日本語を勉強してるんだ!晩飯はまだ?なら僕が奢ってあげるよ!と笑っている。
レストランで初対面の店員さんに奢ってもらうなんて聞いたことねえよ!と疑いながらも、いい奴そうな目をしてるので
ちょっと話してみる。
自分の勘を信じろ。誰かに騙されたなら、ただただそれは自分が悪いのだ。
お金は自分で払うよ、といって僕は店に入った。クアラルンプールは外食がすごく高い。レストランに入ると800円とかしてしまうのでほとんど日本と変わらない。タイやラオスから来たバックパッカーはびびると思う。いきなり倍くらいの値段になるからだ。
でも僕はムハンマドがなんとなく気になったので韓国料理屋に入った。
海鮮スパイシーラーメン。うまし。
ムハンマドは暇があると話かけに来てくれた。どこから来たんだ?1人で旅をしてるのか。クアラルンプールは初めてかい?日本人ってなんで無宗教ですっていうの? ていうか君、ムスリムみたいな顔してるよね!日本人ってもっと顔小さいぜ!とニコニコしながら話しかけてくる。
僕はそれに応えながら色々と彼のことも聞いて、「仕事22時までだからそのあとどっかいこうぜ!」ということになった。
携帯の充電が切れてて…と僕がいうと、なんだよ!そんなの俺が充電しといてやるよ!また22時に戻ってこい!と彼はいう。
一瞬、携帯を渡していいものか迷ったけれど僕は彼を信じることにした。
支払いをしようとすると、いいんだ!とムハンマド。
「俺が払うよ!俺の奢りだっていったろ!」
いい奴すぎるやろ!どういうことやねん! でもあまりにもムハンマドが譲らないのでご馳走になることに。
うまい話すぎる、大丈夫やろか。
まだ僕は彼を少し疑っていた。
ムハンマドの仕事が終わるまで1時間くらいブラブラして時間をつぶす。
大きなショッピングモールがあって、大阪でいうと難波パークスみたいなつくりをしているのだが、規模が断然でかい。
野菜高い。日本と変わらない。
むしろ大阪の業務スーパーのが安い。
髪をきるのも大阪と同じくらいするみたいだ。タイは「普通は200バーツ(800円くらい)」とイブが言ってたことを思うとかなり高いなー。
クアラルンプールはなんていうか「バブってる」。ぐいぐい成長してるのを1日あるくだけでも感じるなー。英語もほとんどの人が話せる。これはタイやラオスとはかなり違う。道を聞いたりしても皆話せるから「何?外国人が英語でなんか言ってる!わかんない!」という対応が全然ない。
都会のヒリヒリ感は東京みたい。
皆が競い合って、せめぎ合っている感じがする。
22時にムハンマドの店に戻った。
彼は仕事を終えて店から出てきて僕に携帯を返してくれた。
「SIMカードが必要なら一緒に買いに行ってあげるよ!」
そうか、本当に優しいやつなんだ。なんか疑っていた自分が馬鹿らしくなった。
僕らは移動しながら色々話した。彼はいま27歳。
「パキスタンから来て3年になるよ。生活は仕事いって帰ってきて、言葉を勉強して眠る、っていう退屈なものだけど、運命が俺をマレーシアに連れてきた」
彼はイスラム教の話になると特に熱くなる。
「イスラムはだれも差別していないし、世界の皆の幸せの為にあるものなんだよ。テレビなんかではよく偏った報道をされるけどね」
彼は嬉しそうに日本のことも色々聞いた。
「おじさんが日本でパキスタンのものを輸入する会社をやっててね。「シャチョー」って俺は彼のことを呼んでる」
色々歩いて店を探して結局僕らは日本風居酒屋に入ることにした。もちろん彼はムスリムだから酒は飲まない。
「君は飲んでくれよ!楽しんで欲しいんだ!俺がご馳走するから!ほら、アサヒがいいだろ!」
悪いよ、僕も払うから!と言ってもムハンマドは受け入れない。
「いいんだ!俺は君と出会えて本当に嬉しいんだ!俺にご馳走させてくれ。お金なんて、生きていけるだけあればいいんだから!」
なんのつてもなくパキスタンからマレーシアに来て、自力で仕事を探して、レストランでバイトをしている彼にとって、こんな所で食べること自体めちゃくちゃ高いに違いない。
「君は旅人だ。先のためにお金はセーブしておいてくれ。金の事は考えなくていい!楽しめ!」
それでも旅人をもてなそうという彼の気概を無駄にしないためにも、僕は楽しませてもらうことにした!
「日本人とムスリムの似てるところはホスピタリティさ!」
「マレーシアの発展は本当にすごい。最初に中国人が来て、沢山商売をした。で、それに負けじとマレー人もヒンドゥー教徒もがんばった。そういう競争があるから、どんどん進んでいる。だから皆英語が話せる。日本では、そういう競争がないからみんな英語が話せないんだと思うよ」彼はマレーシアについてそんな事をいっていた。
パキスタンの事を沢山きいた。
あんなに美しい国はないから是非いってくれと彼は言う。ISISの影響とかでいまは行けないかなと思ってるというと、まったく問題ない!僕の家族もみんな平和にくらしてるよ!カラチなんて世界で8番目にでかい都市なんだぜ、とムハンマド。
アフガニスタンはどう?やっぱり危険かな?そう僕が聞くと彼はこうこたえた。
「行くことはできるよ。問題ない。でもね、外国人を良く思ってない人も多いんだ。アメリカが彼らを国から出れなくしてしまって、彼らは広い世界を知る方法がない。日本で偏った報道がされているのと同じことがアフガニスタンでも起こってるんだよ。」
それから僕らは沢山日本や日本語の話をして、深夜を過ぎて会計をして帰ることになった。
「本当にご馳走になっていいのか?」と僕は聞いた。
いいんだ。
「僕らは幸運にも今日出会った。これ以上のことなんか、ないんだよ。君との出会い以上に高価なものなんてない」
「人間はただ、お互いが必要なんだ。何かあったらなんでも助けるからすぐに教えてほしい。友達以上に必要なものなんて、世の中にないんだよ」
こういう愛のあり方があるんだ。
彼は本当に何も僕に求めなかった。
「ただ僕との時間を美しい思い出にしてくれればいい。パキスタンに行くときは必ず連絡をくれ」と。
見ず知らずの初めてあった人間にここまでできるか。僕は自分に問う。
もっともっと人を信じたい。
裏切られるなんて、当然起こることなんだから、馬鹿みたいに愛することが大切なのかもしれない。
ムハンマドとハグして別れたあと、僕は小さく
「インシュ、アッラー(神の御心のままに」
と呟いてみた。
「人生を変えることができるのは祈りだけだよ」
という彼の言葉がいつまでも耳に残っていた。